ベッドの端に座った疾風の前にひざまずいて、それを舐める。 固くなったそれを両手で包んで、琥珀は必死に舌や口で慰めた。昔取った杵柄、とまではいかないがやり方は知っている。 ただ今まで疾風がそれを要求することがなかったので、疾風のいいところを琥珀はまだ知らなかった。 薬の所為で回らない頭では余計に、満足させるのは難しいように思えた。いくら刺激を与えても疾風は反応を返さず、ただ面白そうに彼女を見下ろすだけだ。 時折髪を撫でられる琥珀の方が、よほど敏感に反応している。 「どうした?」 密やかな笑い声と一緒に降りてくる声に、ピクリと琥珀は体を震わせた。 「…あ………」 もう限界だ。 手を離して、琥珀は自分の身体をなんとか立たせた。 先程中途半端なところで終わったために、どうしようもなく辛い。サウナに入ったように全身にひどく汗をかいていた。 心拍数が上がってこめかみが痛い。 呼吸が上手くできなくて、息が出来ない。 視界は狭く、霞がかってよく見えない。 脱ぐことを許してくれなかったので、彼女はシャツを羽織ったままだ。ほとんど力が入らないまま、琥珀はこの熱を静められる唯一の人物の耳に、口を寄せた。 「……、だ……め…?」 疾風はぐいっと彼女の身体を離した。 「琥珀、おねだりはそうじゃないだろ?」 両側の脇腹を掴まれたまま、そう言葉を返される。一瞬きょとんとした顔をした琥珀は、薬と熱で紅くなった頬を更に赤く染めた。 「…、あ………の……」 「ん?」 「………………」 あちらこちらに向けていた視線を、観念して上げると、疾風はやけに嬉しそうに笑っていた。 (…う〜〜〜……) すでに負けは決定している。 浅い呼吸をしているのが精一杯で、眉を少し歪ませるくらいしかできなかったから、琥珀は心の中で頬を膨らませた。 これからもきっと、自分はこの人に負け続ける。 薬のことじゃなくて。例えばこういう時、言ったら疾風が喜ぶと思うから、それが見たくて負けてしまうのだ。 「…………はや、て…」 呼ぶと、疾風は少し口の端を持ち上げて、琥珀の頬を軽く撫でた。 「…ず…っと、そばにいる、……から」 しんと静まり返っているのに、呼吸音が酷くてよく聞こえない。けれども、疾風はじっと耳を傾けていた。 「…は、疾風、しか…」 未だに敬称のない呼び方は慣れない。 恋人になってからは名前で呼ぶようにと言われているものの、長年の染みこんだ習慣はなかなか消えず、いつもつい『様』を付けてしまう。 初めは呼び捨てでないことを怒っていたけれど、最近は諦めたようだ。もしくは静かに怒っているだけか。 「えと……欲しくな、い………よ」 ろくに呼吸ができないので、話すだけで息があがった。最後の方は消え入るような声で、言い終わった後は思い切り空気を吸い込んだ。 ここに残ると言ってから、疾風はよくこういうことを聞きたがった。琥珀としては、当たり前と思っていることなのに。 そして言った後は決まって、痛いほどきつく抱きしめられるのだ。 「もう、いいな」 それがなんの合図か気づいて、返事をする前に全身を貫く衝撃がきた。一気に体の奥まで侵入した疾風に、琥珀が声にならない悲鳴をあげた。 「っひ、う…ぁ…」 突き上げるたびに小さな体が跳ねる。 何時間が経っただろうか、すでに衣服が取り払われ、白い肌にたくさんの紅い花をつけた琥珀は、焦点の合わない目で宙を見ていた。 媚薬はまだ効果が続いているようで、まともな思考も出来ていないだろう。 ただ人形のように揺さぶられるまま、知り尽くしている弱いところを攻めれば、鼻にかかった悲鳴を上げた。 「や…っ、も、ぅ……」 絶頂の波が近いのか琥珀が小さく声を上げた。 もう何度目だろう。 すでに意識が半ば飛んでいて、与えられる刺激にただ反応するだけだ。体格も体力違う疾風を相手に、相当辛いのは見て取れた。 「駄目だ。我慢」 疾風もそろそろ限界が近い。さすがに彼も声が掠れていたが、『待て』を指示する。 もう開けることも出来ないらしく、琥珀は眼を瞑ったまま眉根を寄せた。腹部に力が入って彼女が必死に耐えているのがわかった。 「……琥珀は、俺が好きか?」 その顔を見ているうちに、ふと口から言葉が零れる。 言った後に、疾風は驚きで眼を見開いた。 彼の動揺を知ってか知らずか、琥珀は泣きすぎて溶けてしまいそうな瞳で疾風を見て、ゆっくり一度頷いた。 その返事に心の底から安堵しつつ、さらに言葉が零れた。 「………こんな事をされていても?」 「…、ッんーーぁ……」 激しくなった律動に、琥珀はあっけなく達する。シーツをぎゅっと握って背中を弓なりにし、琥珀はその感覚に耐えていた。 疾風も息を吐いて琥珀の中に欲望を吐き出す。琥珀はそこで目を見開いて、またポロポロと涙を流した。 身体の硬直が終わった後シーツの上に倒れた琥珀は、そのまま眼を閉じて、気絶した。 「…身勝手で独占欲が強くて、好き勝手に身体を弄ぶような男だぞ?」 呟きに応える声はない。 疾風はふーっと長い息を吐いて、琥珀からゆっくりと身体を離した。 |