choco choco kiss 3






 しょげている琥珀を前に、疾風は腕を組んだ。
 どうしたものかと思案に暮れ、すぐに自分の顔ににやりと底意地の悪い表情が浮かん
だのが分かった。

「琥珀」

 はっと顔を上げた琥珀が、自分の顔を見て少しだけ眉を顰めて、一層怯えた表情を見
せた。

 とりあえず口の端を持ち上げてみたものの、眼が笑っていないのかもしれない。

 おろおろとうろたえて、疾風の前から遠ざかりたいと全身で表現する琥珀を、逃がすま
いとすぐに優しくその手を取った。

 指先に口付けすると、琥珀がさらに身を硬くした。


 自分の身がこれからどうなるか、わかったようだ。


「チョコは、いらない」

 細い腰を取って、抱き上げる。相も変わらず羽のように軽い琥珀の顔が、とたんに近
くなる。

「その代わり。 …琥珀を、食べさせて?」

 その耳にわざとゆっくり息をかけながら、お決まりの台詞を言う。

 琥珀が作ったものとはいえ、チョコは大の苦手なのであまり食べる気はしない。もちろん、
笑顔で渡されたら断りなどせずに食べきる自信はあるが。

 今更チョコを作りになど行かせるわけもなく。

 結局のところ疾風にしてみれば、匂いだけでうんざりする様なお菓子よりも、腕の中の
少女を味わいたいわけで。

 返事の代わりに、疾風の首にぎゅっとすがり付いてきた琥珀を、寝室まで連れてくる。

 折角のイベントだ。少々利用しても構わないだろう。



 ーーーーーーー今なら、大抵のお願いは聞いてくれるだろうし。



 内鍵をかける音が聞こえたのか、琥珀が顔をあげて疾風を見た。困惑と、不安と怯え
のよぎる顔は、疾風の支配欲に火をつけるには申し分ない。

「は、やて…さま? 鍵…」

 そろそろと体を離そうとするが、そうはさせまいと一層強く抱きしめる。

 獲物は、危険なパターンだと分かったらしい。何か言われる前に、細い顎を掴んで抱き
上げたまま口付ける。

 たっぷりと甘い唇を味わって、口を離す。熱に浮かされた瞳を覗き込んで、疾風はにや
りと笑顔を浮かべた。

「今日は、『イヤ』とは言わない事」

「え?」

「言ったら……そうだな、その分奉仕してもらおうかな」

「え、え…?」

 ベッドにうつ伏せに琥珀を降ろす。その上に四つんばいになって、まだ状況を飲み込め
ていない琥珀に構わず、肩口に舌を這わせた。

 肩がむき出しの、いわゆるそういうための服。部屋に帰って琥珀の姿を見た瞬間、押し
倒したくなったのをここまで我慢したのだ、意地悪してもバチは当たらないだろう。

 細かく反応を返してくる琥珀の太ももにするりと手を這わす。

 弱いところを撫でられて、琥珀は大きく反応した。

「疾風さ…っ…ヤ……」

「一回目。 琥珀、お菓子は食べられるときに嫌とは言わないぞ」

 のどの奥で笑って、首筋に口づけをする。その途端に華奢な肩が跳ねて、甘い声が漏
れた。


 しかし回数を数えられるのを恐れたのか、今度は抵抗せずにぎゅっと眼を瞑っている。

(…それじゃあ、ちょっと面白くないんだよな)

「こっち向け」

 ほんの少しだけ体の上に隙間を作る。琥珀はベッドに顔を埋めたまま、ふるふると頭を
振った。

 色素の薄い髪がベッドの上や白い背中に散らして、柔らかく動く。

 琥珀が意地を張るのも想像の範囲内だ。

「顔、見せて」

 息がかかるほど耳元近くで囁くと、琥珀は顔を真っ赤にして、それでもゆっくりと振り返
った。

 結果的に向かい合う格好になった琥珀は、頬を膨らませて疾風を見る。

「ずる、い…っ!」

 頬を染めて小さく悪態をつく琥珀が可愛くて、笑っていた疾風がまだ以前の痣がいくら
か残っている鎖骨に唇を落とす。

 強く吸うと肩が小さく跳ね、離せば、白い肌に紅い花が咲いていた。

 一度はじめるとどうにも止まらなくなった。気づいたときには、首筋から胸元から至ると
ころにつけていた。

「…あ、の、隠しきれ、なく、なるから…っ」

 小さな両手で唇を塞がれて、困惑した目で見上げられる。
 疾風はやんわりと左手だけでその手を外した。

「隠さなくていいんだよ」

 両手を琥珀の上のシーツに縫い付けて、空いた右手が少女の体の線をゆっくりとなぞ
った。

「これは、琥珀が俺のものっていう証だからな」

 煽るような指使いに顔を赤らめる琥珀と目を合わせて、手は休めないまま疾風は琥珀
に口付けした。





 は、はという自分の小さな呼吸音が、部屋の中に響く水音の合間に部屋の中でやけに
耳障りだ。

 疾風の指が自分の中でどう動いているのが、過敏になった神経が伝えてくる。

 飲み込めない唾液が、意思とは無関係に開いた口から滴るのがわかった。

「や、あぁ…っ」

 出たり入ったりしていた指が不意に、さらに奥へと動いた。一番弱いところを探り当てら
れ、びくりと体が強張る。

 汗ばんだ肌に服が張り付いて、気持ちが悪い。
 一度脱ごうとしたのだが、笑顔でダメだと言われてしまった。

「だから、イヤは言うなって…」

 少し呆れたような疾風の声が降ってくる。声は普通なのに、手は休めない。
 突き上げられて、琥珀は小さく悲鳴を上げて背中を反らせた。

 イッたのを確認して、疾風が指を抜いた。琥珀のものより何倍も長いその指に絡められ
る透明な液を、ゆっくりと疾風が舐めとる。

「だ、だめ…っ」

 琥珀は頬を赤らめた。必死で疾風の手を掴んで、それを阻止する。

 くすりと笑った疾風は、その手を押し止めて琥珀の内腿に手を這わせた。

「いいか?」

「ん、う、ん…」

 真っ赤になって、琥珀は小さく呟く。

 どれだけ抱いても、琥珀の反応は変わらない。相変わらず処女のように綺麗で強情だ。

 すでに準備できていたモノを取り出して、入り口に押し当てる。蜜で蕩けるそこは、すぐ
に疾風を受け入れた。

「っあ、あ…っ」

 背中を何とも言えぬ感覚が過ぎる。圧迫感に荒い息を吐くと、不意に体が抱き起こされ
胡坐をかいた疾風に向かい合うようにして座る。

 だが、疾風はそのまま動かなかった。


 不審に思って目を開けると、疾風はにやにやと笑みを浮かべていた。

「バツゲーム。琥珀は『イヤ』と30回言いました」

「え、そん、なに…?」

「ああ」

 多少さばを読んだが、それは隠して疾風は頷いた。

「だから、同じ数だけ俺にスキって言ってくれる?」

 思いも寄らない言葉に、琥珀は目を見開いた。長い睫毛を何度かぱちぱちと瞬かせて、
琥珀はいつもよりも濡れた紅い唇をゆっくり開いた。

「す…き…?」

「そう。あと29回」

 耳元で疾風が呟く。琥珀は顔を赤らめてもう一度瞬きをしてから、口を開いた。

「すき…すき…す、き………あ、あの、はず、かし、…よ」

 軽く首を振る琥珀を見て、疾風は滅多に見られないとろけるような笑顔を見せた。

「俺は嬉しい」

 その表情を見て、琥珀はまた言い始めた。

「…すき。すき…………大、すき」

 最後にぽつりと呟いて、琥珀はぎゅっと疾風に抱きついた。
 その直後、ギクリと体を強張らせる。

「は、はやてさ…っま」

 繋がった部分の質量が増したのを、否応無しに感じた琥珀が非難の声を上げると、疾
風が苦笑した。

「いや、…そんな予想外の可愛い事言われたら、男としては反応するのが当たり前という
か…」

 心なしか紅い顔を隠すように、手で口を押さえていた疾風は、やがて手を離して琥珀を
見上げると、その目を細めた。

「俺も、好きだよ」

「ん……、っあぅ! ふっ、んんっ」

 口付けをしたまま突き上げられる。

 満足に呼吸ができなくて、体を離そうとするのに、疾風は琥珀の体を押さえつけて逃げ
られないようにした。

 苦しさと相まって、疾風の背中に回した手に思わず力をこめる。

「はや、っ…くる、し…ん、んっ…ふあっ…」

 的確に弱いところを攻め立てられて、琥珀は泣きそうになりながら首を振った。

 唾液を口の端から垂らして、細かく荒い呼吸を繰り返す琥珀を前にさすがにやりすぎた
と思った疾風は、口を離した。

「ん、…ふっ、っっあぁ!!」

 すでに知り尽くされている体は、疾風の動きに耐えられずすぐに達してしまう。

 目を瞑って荒い息を吐く琥珀を見ていた疾風は、にやりと笑ってさらに結合を深めた。

 さらに疾風の入ってくる感覚に、琥珀は目を見開いた。

「っ…あ、や、なん、で…っ」

「決まっているだろ。 今日くらいは、深く味わわせてくれよ」

「そ、そんっ……は、あっう…ッ」

 いつもに増して深いところまで侵入してきた疾風の動きに翻弄されて、琥珀は頭が真っ
白になった。

 体格差が相当あるので、手加減はしてくれているのだろうが、快感なのか痛みなのかわ
からないほどの激しい動きに、琥珀はポロポロ涙をこぼした。

 ベッドに仰向けになって、シーツを強く握り締める。

「や、あんっ…は、やて、さっ…んっ、や、…っだめ…ぇ…」

「くっ…」

 小さく悲鳴を零したところで、琥珀は達し、薄い膜越しに疾風も達したのが分かった。

 ぐったりとベッドに身を投げ出した琥珀の耳に、疾風がそっと口を近づけた。

「まだ、寝るなよ」

「…えっ?」

 思わず瞑っていた目を開けた琥珀に、疾風がにっこりと笑った。

「今日は、俺の気が済むまで琥珀を食べていいんだよな?」

「え…、ん、と……あれ?」

 そこまでは言ってなかったと思った琥珀が、急いで思い出そうとすると、疾風は琥珀の
手を取って人差し指を軽く噛んだ。

「さあて、なにをして貰おうかな」

「っ待って、あ、のっ…!!」

 琥珀の文句は、疾風の口の中に消えていった。








「ヴァレタ、イン…も、う、しないっ!」

 明け方になってようやく解放された琥珀は、涙目になって疾風にそう宣言したそうな。






END


すみません、勘弁してください。



「MOON DROP」の世界では聖・馬連多院が貧しい子どもたちにお菓子を配ったのが始まりです。
(だから無駄な設定を作るなって)



さて。
いつも通り、補足説明という名の未熟っぷりを披露しようと思います。

・バレンタインイベントは、ここ十数年の間に広まった文化なので、貴族のお爺さま方はそんな
ものに便乗しませんし、琥珀も知りません。

・疾風宛のチョコは幹部が全部回収してます。 どうせ食べないし、もし他の人からもらっている
ところを見たら、琥珀が落ち込むので。

・花梨はチョコクッキー、鴉はガトーショコラをつくりました。

・本編終了後の二人と思ってください。

・バレンタイン企画にかこつけて、最近微妙な雰囲気の二人のいちゃいちゃ話を書きたかっただ
けです・・・!!

 
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けましたら、光栄です。
















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