「うわなに!? 琥珀ちゃんそれ、どうしたの!」

 友人の姿を見て顔を明るくした琥珀だが、ぎょっと眼を見開いた雲雀の大声に硬直した。
 どうやら獣の耳が生えているため、大きな音が苦手らしい。


 次の瞬間、疾風が、地響きを立てるような勢いで足を壁についた。



 雲雀の顔の横、右の耳すれすれに。



「しらじらしいな、おい」

「う、うわぁ〜…今、本気で顔潰されるかと思いました〜…」

 不機嫌をこれぽっちも隠そうとしない顔で呟く疾風に、汗を流しながら雲雀は両手を上
げた。

「騒ぎの原因はお前の飼い主だろ? この始末どうつけてくれるんだ」

「え、え〜……あの人たまに本当に訳が分からないことしますから…あ」

 琥珀に聞こえないように言った疾風の言葉に、雲雀が途中で小さく声を上げた。

 眼を軽く泳がせて、頭の中の引き出しを開け閉めしていた彼は、しばらくして決心した
ように言った。

「…そういえば、この間手紙をもらいました。これに関することかもしれません」

「それは興味深いな。 で?」

「…………一語一句違わず伝えた方がいいですか? 俺的には、省略しつつ伝えたいの
ですが…」

「全部話せ」

「………………………もし、開けたらこう伝えて欲しいと。

 『え? やっぱり琥珀ちゃんが開けてくれたの? あはははははは、君、本ッ当に彼女
に弱いねぇ…』すみません、すみません、本当にすみません。むしろ生まれてきてごめん
なさい。 だ、だから省略した方がいいって言ったじゃないですかー!」

 言っている途中で胸ぐらを掴んだ疾風に、半泣きで雲雀が叫ぶ。

 いつでも殴れるように握っていた拳を緩めて、疾風が舌打ちをした。

「身体が勝手に動いた」

「……だと思います」

「にゃ、にゃあ、にゃ!!」

 いつの間にか近くに来ていた琥珀が、疾風の服の袖を掴んでプルプルと首を振ってい
る。

「にゃー、にゃー…にゃ」

「喧嘩はやめろってさ」

 ひょい、と琥珀を抱え上げて眼竜が言う。琥珀は真剣な表情で、必死に頷いた。

「ほらほら、元に戻す方が先だろ。 確かに可愛いけど、このままじゃ琥珀ちゃんが可哀
想だ」

 にゃー…と小さく呟いて、今度は琥珀が首を振った。

「ん?別に気にしなくていいって。 こうなったら仕事なんて後々」

 特に言葉は発していないが、会話が成立していた。

 そういえば眼竜は動物や子どもに好かれやすいんだった、と疾風が思っているところで、
扉が再度開けられた。

 花梨だ。

「さあ!準備が出来ましたよ! 琥珀様、来てください」

 着せ替えへの期待か、花梨の顔はものすごく嬉しそうだ。


 抱き上げたままの琥珀の表情が恐怖のそれに変わるのがわかって、眼竜は疾風を見
た。

 琥珀もプルプル震えながら疾風を見る。

「………行ってこい」

 彼は琥珀の目は見ないままで、小さく呟いた。

 途端にしょぼんと琥珀が耳を垂らし、眼竜が床に下ろすと琥珀は大人しく花梨に捕まっ
た。

「さあさあ、カメラも用意しましたよ。 ふふふふふ、何から着てもらいましょうか」

「にゃ、にゃぁ…」

 爛々と目を光らせる花梨に引きずられるような形で、琥珀は部屋から出て行った。

 尻尾が力なく揺れているのを見送って、眼竜が苦笑いを零す。

「すっごい、罪悪感があるな…」

 同じくそちらを見ていた疾風が大きく溜息をついた。



「とりあえずしばらくはこいつに話を聞くしかないからな。 さ、知ってること全部吐け。何
なら自白剤使うか拷問形式でも構わないが、どうする?」

「……………お手柔らかによろしくお願いします」

 すごく爽やかで危険な笑顔を浮かべながら、疾風が雲雀の尋問を開始した。

 その光景を前に、眼竜が首の後ろをぽりぽりと掻きながらふと思う。

(あの手紙、先に俺か疾風が開けてたらどうなってたんだろうなぁ…)

 琥珀だからこそ、可愛いで済まされるが。

 少し想像をして、怖いのですぐ止めた。


 眼竜は末代まで語り継がれる恥。疾風は見た目ではなく、その後起こるであろう惨状が
怖い。姿を見た者全て、抹殺していくのではないだろうか。

 今頃、鴉や花梨などの着せ替え人形になっているだろう琥珀に感謝して、眼竜は心の
中で合掌した。














というわけで、「MOON DROP」カウント二十万を突破しました。本当にありがとうございます!!
名前だけもいますがほぼ全員出して…あ、ハナ出てない…ま、まあ次の機会に(ごにょごにょ)


後日談としては、時雨は手紙を残して逃亡(あれ?監視は!?)していたので、残されたそれを
手がかりになんとか元に戻しました。
雲雀は何も知らないので完全にとばっちりです。


『にゃ(2)ん』とかずたんからの頂き物もにゃんこだったので、お礼話に丁度いいかと猫になりました。
まさか二十万という大台も大台に届くとは思ってもみず、どう感謝を表せばいいものやら軽くパニックでございます。

来てくださる皆様に少しでも楽しんで頂ければなによりです。
また、これからも「MOON DROP」共々よろしくお願いいたします!!(08.7.27)












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